【新企画】桜志会のイメージキャラ小説

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【新企画】桜志会のイメージキャラ小説

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    • 一井 亮治
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        桜志会を擬人化したマスコットキャラ案――『桜子と志郎』ーーの連載を試みるマイ企画です。

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      • 一井 亮治
        参加者

          『桜子と志郎』

           一話

          「私は、自分が嫌い」
           嫌悪感を吐露するのは、女子高生の源桜子だ。上に三つ離れた兄・志郎がおり、既に税理士資格を有し、大学の傍ら税理士事務所を営む父を補佐している。
           いわゆる源家自慢の兄であり、桜子にとってコンプレックスの対象だ。志郎はいう。努力は裏切らない、と。
          「対して私は……」
           嘆く桜子は、頭を抱えた。とにかく不器用なのだ。いつしか兄と比べられることに嫌気が指し、最低限の努力すらしなくなった。
           今日も授業をサボり、屋上でタバコを吸いながら、進路の提出用紙を眺めている。
          「進路も何も、どうせ私は落ちこぼれよ」
           鼻を鳴らす桜子だが、そこへ突風が吹き進路の用紙が飛んだ。慌てた桜子がその用紙を追った矢先、足を踏み外してしまった。
           ――ヤバいっ……。
           既に片足は屋上にない。桜子は真っ逆様に転落するや地面に激突し、意識を失った。

           どれほど時間が経過したことだろう。はたと目を覚ました桜子は、己の姿に息を飲んだ。体は透け宙に浮いており、その下には昏睡状態の肉体が病床の上で寝かされているのだ。
           周囲には、泣き崩れる家族の嗚咽が響き渡っている。幽体離脱中の桜子は、愕然としながら呟いた。
           ――私、死んだの?
           傍らの医者が曰くには、桜子は植物人間状態にあり、余程のことがなければ意識が戻ることはないだろう、との事だった。
           切り裂くような親の号泣に桜子は、胸を引き裂かれる思いだ。そこへ背後から声が響いた。
          「ま、そう言うことさ」
           振り返ると、いかにも生意気といった天使とも悪魔とも取れる少年の姿がある。
          「僕はシュレ、死神だ。桜子、君をあの世から迎えに来た……と言いたいところだが、ちょっと事情があってね」
           シュレは、意味深な笑みとともに続けた。
          「桜子、実は君は閻魔から無作為に選ばれたんだ。生き返らせてやってもいい。ただ条件がある」
          「条件?」
           聞き耳を立てる桜子にシュレは、続けた。曰く、日本は霊界ともに危機にあり、亡国の憂き目にある。もし救国の任務を受けてくれれば、生き返らせてやってもいいとの事だった。
          「どうだい。いい条件だろう?」
           腕を組み鼻で笑うシュレに桜子は、しばし考えた後、大きくかぶりを振った。
          「いらない」
          「おいおい桜子、生き返れるんだぜ」
          「もういい……十分よ」
           桜子は自嘲気味に嘆いた。
          「源家のお荷物の私が国を救う? そんなのムリよ。これまでも色々努力はしたよ。でも何をやってもダメ。むしろ、そう言う崇高な仕事は、優秀な志郎兄がやればいい」
           桜子の言葉にシュレは、肩をすくめながら言った。
          「桜子。キミは一つ誤解をしてるよ」
          「誤解?」
           聞き耳を立てる桜子にシュレが言った。
          「努力は裏切らない。必ず結果が伴うって思ってる? 違うよ。平気で裏切る。正しくやらないとね。しかも何が正しいかは時代によって変わるし、効果も人によってまちまちだ」
           淡々と語るシュレに桜子は、返す言葉がない。シュレは畳み掛けた。
          「要するに単なるトライさ。あくまで挑戦であって、確実に見返りが保証されている訳じゃない。でも前進するにはトライしかない。難儀な話さ」
          「じゃぁ、私は……」
          「あぁ、今のままじゃ、どんなに頑張ってもお兄さんみたいにはなれないね」
           断言するシュレに桜子は、改めて己を嫌悪した。そんな心中を察したようにシュレが続けた。
          「ただね。キミには、そんなお兄さんに頼る権利はある。才能には恵まれずとも親兄弟には恵まれた。ならそれを十二分に活用して、自分にしか出来ない事をやればいいじゃないか」
           ――自分にしか出来ない事……
           桜子は改めて考えた。そんなものがあるなら、真っ先にでも頼りたい気持ちだ。
           さらにこうも思った。国を救うなど大それた事が出来なくとも、親兄弟の力を得てなら、こんな自分にも何か出来るのではないか、と。
          「どうだい。この契約、受ける気になった?」
           改めて問うシュレに桜子は、しばし考慮の後、うなずく。
          「えぇ……いいでしょう。ただし、こちらにも条件があるわ」
          「ほぉ、何だ?」
           聞き耳を立てるシュレに桜子は、言った。
          「救国とはいえ、まず守るのは家族。もし、それが破られたら、私は迷わずこの国を棄てる」
          「ふむ。なるほど……まぁ、確かに国なんて、沈めば乗り換える船みたいなもんだ。オーケー、契約成立だ。期待してるぜ」
           シュレは、パチンと指を鳴らす。すると見る見るうちに桜子の透けた魂が、病床の肉体へと戻り、それまでピクリとも動かなかった桜子が、はっきりとまぶたを開いた。
           驚いたのは、家族だ。
          「桜子!」
          「志郎兄……」
           布団から出す桜の手を志郎兄が握りしめる。慌てて戻ってきた医者の診断を受けながら、桜子は感涙する家族を前に誓いを立てた。
           ――手に入れたこの命。もう一度、大事に使ってみよう。皆のために……。
           決意を固めるその目には、力強い光が宿っていた。

        • 一井 亮治
          参加者

            『桜子』『志郎』のキャラ絵

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          • 一井 亮治
            参加者

               二話(※十日ごとの連載予定です)

               退院から数日後、桜子はシュレとともに荒廃した大地に立っている。
              「これが百年後の日本……」
               あまりの惨状に絶句する桜子にシュレが言った。
              「止まらない少子高齢化、国際競争力を失う製造業、天文学的な財政赤字、インフレ……その行くつく先がこれさ」
              「シュレ、何とか未来を変える方法はないの?」
               愕然としつつ、問いを投げる桜子にシュレが肩をすくめながら答えた。
              「なくはないよ。ただ、そのためには歴史のクリスタルを集める必要がある」
              「何それ。どこにあるのよ?」
              「それがよく分かっていない。ただ歴史を揺るがす大事件に絡んで現れるのは、事実だ。要は段階を踏もうってことさ。今、君は僕とこの国の暗い未来を確認した。なら次にすべきはこの国の成り立ちを見直すこと」
              「つまり、過去へ飛ぶってことね」
               確認する桜子にシュレはうなずき、意味深に問うた。
              「桜子、日本って国の出発点ってどこだと思う?」
              「え……そりゃぁ税制かな。租・庸・調が整備された頃じゃない?」
              「ハッハッハッ……さすが税理士一家だけあるね。確かに一理あるが、まずは日本の風土を決定づける出発点へ飛ぼう。おそらくそこに歴史のクリスタルがある。鍵はここに書かれているよ」
               シュレは、一冊の書物を差し出した。
              「これって、古事記じゃない!」
              「そうだよ。日本の歴史の出発点だもん。じゃぁ健闘を祈るよ」
               そこでシュレは指を鳴らした。その直後、桜子の視界から未来の景色が消え、その身が時空の移動空間に投げ込まれた。桜子は体の上下もままならないまま、いきなり大昔の時空へと放り出された。
              「ここが、太古の日本……」
               桜子は、文明らしきものがほとんど見られない情景に困惑しつつ、古事記を開く。そこには、日本という国が神々から生み出された出発点が記されている。いわゆる〈国産み〉だ。
              「イザナギとイザナミの二神が、泥の海を矛で掻き混ぜ、滴り落ちたものが島となり日本の原型になった、か。トンデモ本ね」
               桜子は鼻で笑いつつ、古事記を閉じた。まずは視察とばかりに西へ向かうと、広大な水場が広がっている。
              「あれは、日本海?」
               試しに波打ち際へ歩み寄り、調べてみてみると、意外に淡水湖だった。ただ、そのサイズは海の如く広い。琵琶湖など比べ物にならないほどだ。
               さらに驚くべきことに、一本の浜辺を挟んだ向こうには、まごうことなき大海原が広がっていた。
               そうこうするうちに天候が崩れ始めた。風が強まり波が激しさを増していく。
               ――嵐が来る。早く避難を。
               桜子は、叩きつけるような雨風に晒されながら、近辺の丘へと避難した。よじ登った頂上から一帯を見下ろすと、今まさに海と湖を隔てる浜辺が切れかかっている。
               その光景に桜子は、はっと息を飲んだ。
               ――もしかして、これって……。
               実は以前、兄・志郎から太古の日本は大陸と地続きである事実を聞かされていたのだ。
               ――間違いない。今まさに日本を決定づける大事件が起ころうとしている。
               その直後、心臓が止まるかと思うほどの雷が落ちた。稲妻は地上に矛を突き立てるが如く浜辺の岩を打ち砕き、蟻の一穴となって海水をなだれ込ませた。
               そこから始まったのは、一大スペクタルである。まさに古事記にある『神が矛でかき混ぜる』が如く、怒涛の勢いで淡水湖を海へと変えていった。
               それは、古代の人々にとって忘れられない出来事となったはずだ。この嵐が去った後には湖は海水に変わっており、大陸から切り離され島国になっていたのである。
               まさに国が生まれ変わったが如くだ。その歴史的瞬間を目の当たりにした桜子の前に光る物体が現れた。
              「あれだっ! 歴史のクリスタル!」
               迷うことなく駆け出し丘から跳び込んだ桜子は、クリスタルをその手で掴んだ。その瞬間、桜子の体はまばゆい光に包まれ、体が時空の移動空間に飲まれていく。
               気がついたときには、周囲は現代に戻っていた。目の前には、笑顔のシュレが立っている。
              「桜子、どうやら成功したようだね」
               桜子は大いにうなずく。
              「日本の歴史の出発点は、大陸から切り離され島国になった瞬間って事ね」
              「そう。島国となったことを機に日本は、大陸の影響を色濃く受けつつも、独自の文化を育んでいくことになる。税制も然りさ」
               諭すように語るシュレを前に桜子は、改めてクリスタルを見る。そこには美しさと妖しさを兼ねあわせた独特の輝きがあった。

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            • 一井 亮治
              参加者

                 三話
                 
                「日本の特徴?」
                 桜子の問いに首を傾げるのは、兄・志郎である。書籍が山積みの部屋で大学の研究に向き合っていたところを、桜子が割って入り答えを求めたのだ。
                 無論、狙いはシュレから求められている歴史のクリスタルの解明にある。そんな桜子に志郎が切り出した。
                「やはり税制でみれば、シャウプ勧告だろうな。社会情勢に応じ修正されてきたとはいえ、現在も我が国の税制の基礎だ」
                「や、税理士としての模範解答はそうなんだろうけど、もっと分かりやすいやつってない?」
                 安直さを求める桜子に志郎は、腕を組み考慮の後、言った。
                「日本語かな。平仮名やカタカナがあり、漢字に至っては訓読みと音読みに分かれ、困ったことにその使い分けに法則性がない。だが、そんな複雑さを持ち前の器用さで使いこなしてしまう。まさにガラパゴスだ」
                「確かに」
                 納得する桜子に持ち前の知的好奇心をそそられたのか、志郎は「研究してみよう」と机上のパソコンを立ち上げた。
                「桜子、『黄金虫』って知ってるか?」
                「何それ、おいしいの?」
                「食い物じゃない。エドガー・アラン・ポーの短編推理小説だ。そこに暗号解読が出てくる。使用頻度を調べ最も多い記号が、アルファベットでよく使われる〈e〉だとして解読していくんだ」
                「へぇ、頭っいい! じゃぁ日本語はどうなんだろう」
                「それを調べるのさ」
                 志郎は、画面に夏目漱石の『草枕』を開くと、さらにエクセルを立ち上げ縦軸にアイウエオの母音を、横軸にアカサタナの子音を作りリストにした。
                 そこで、草枕の文章に出てくる文字の使用頻度を一つ一つ入力していったのだが、集計すると思わぬ傾向が出た。桜子が画面を指差しながら言った。
                「志郎兄、これって……」
                「あぁ、間違いない。母音の〈ア〉が多く、〈エ〉が少ない。なぜだ?」
                 顎を手に乗せ画面を睨む志郎に、桜子は素直な意見を出した。
                「〈ア〉の母音が一番、発音しやすいからじゃない?」
                「あぁ……確かにそうだ。桜子、お前の言うとおりだ。凄いじゃないか」
                 驚く志郎に桜子は、思わず照れつつもさらに言った。
                「この傾向って、どの場合でも同じなのかな」
                「人名とかどうだ。女性なら〈子〉で終わる場合が多いから、母音も〈オ〉が多そうだ。おそらく違う傾向が働くはずだ」
                 そこから知的探究心に火がついた二人は、日本語の言語研究をデータから読み解き始めた。まさにID野球ならぬID文学である。
                 やがて、二人の研究が佳境に入り始めた矢先、桜子のポケットが光を放ち始めた。歴史のクリスタルである。
                「おい桜子、何だよそれ!?」
                「や、これはその……歴史のクリスタルって言ってね」
                 桜子の説明もままならないうちに、二人はクリスタルが放つ光に飲み込まれ、現代から姿を消した。

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              • 一井 亮治
                参加者

                    四話
                   
                   上下もままならないまま時空を移動した二人は、見知らぬ空間へと乱暴に放り出された。
                  「痛っ……」「何だよ、ここは!?」
                   上体を起こした桜子と志郎だが、そこで一人の女性を下敷きにしているのを見つけ、慌てて場所を退いた。雛人形の如く重ね着をまとったその女性は、ぶつけた頭を押さえつつ声を上げた。
                  「あなた達は一体、何ですか。いきなり!」
                  「や、それが俺達もいきなりここに放り出されて……」
                   戸惑いの声を上げる志郎だが、傍らの桜子が周囲を眺めつつ素早く頭を働かせた。
                   ――この感じ。多分、平安時代ね。そこで日本の特徴や起源に行き着くとすれば……。
                  「もしかしてあなたは、紫式部さん?」
                  「おい桜子、お前何言ってんだよ」
                   笑う志郎だが、その女性は乱れた身なりを整えつつ、返答した。
                  「えぇ、紫式部ですが、なぜそれを?」
                  「実は私達、未来から来たんです」
                   これには紫式部は言わずもがな、傍らの志郎も驚きを隠せない。そんな二人に桜子は、事の顛末を手短に説明していく。
                  「つまり、歴史のクリスタルとやらに呼ばれて、日本の起源を探るべく平安時代にタイムリープしたってことか?」
                  「そうなの志郎兄。と言っても信じてもらえないだろうけど……」
                  「いえ、私は信じますよ」
                   声を上げるのは、紫式部である。
                  「感じるんです。遣唐使の廃止に伴い国風文化とでも言いましょうか、この国……つまり、桜さんの仰る〈ニホン〉の根幹たる日本語が独自の形に作り変えられていくのを。でもね……」
                   そこで紫式部は表情を曇らせ、その目に涙を滲ませた。驚く桜子と志郎に紫式部は「ごめんなさんね」と謝りつつ、説明した。曰く、夫の宣孝に先立たれ生きる希望を失いかけている、と。
                  「もういっそのこと、この身ともども……」
                  「や、ダメです紫式部さん。あなたにはやらねばならぬことがあるでしょう!」
                   吠える桜子に紫式部は首を傾げている。やむなく桜子は、言った。
                  「『源氏物語』ですよ! 世界最古の長編小説にして、日本が誇る萌え萌え宮廷ゴシップノベル! あなたは、その元祖なんです」
                  「フフッ……確かに書き掛けの小説はあるのですが、とても人にお見せできるものでは。それに私如きがそんな大それたこと……」
                   恥じらう紫式部に、前のめりになる桜子だが、それを志郎が手で制す。目配せの後、志郎は思わぬ角度から紫式部を刺激した。それはまさに寸鉄人を刺す一言だった。
                  「そういえば、清少納言さんも有名ですね」
                   これに紫式部はピタリと体を止める。ジロっと睨む紫式部に脈ありと見た志郎は、朗々と『枕草子』の一節を詠みあげた。
                  「春は、あけぼの。ようよう白くなりゆく山ぎは、すこし明かりて、紫だちたる雲の、細くたなびきたる……」
                  「志郎さん」
                   紫式部は、咳払いの後、厳かに言った。
                  「私の前であの女の話は、なさらないでくださるかしら」
                  「や、しかし名文ですし……」
                  「名文?! ちょっと漢文が読めるからって皆に煽られて得意げになって、実に浅ましい。よく読めばあの人の漢文は未熟だし「人と違うんですよ、私は」って思い込んでるだけでしょう。ふん、馬鹿らしい。こうしちゃいられないわ」
                   紫式部は、いても立ってもいられなくなったのか、書き掛けの小説を机に広げ言った。
                  「桜さんと志郎さん、悪いけど出ていってもらえるかしら。執筆の邪魔だから」
                   人が変わったように己の世界に没頭する紫式部に二人は、笑顔でうなずき合う。そこで歴史のクリスタルが光を放った。
                   たちまち二人は、その光に飲まれ平安時代から姿を消し、元いた現代へと舞い戻った。周囲が志郎の部屋であることを確認した桜子がしみじみと言った。
                  「志郎兄。平安時代って、要するにヒキコモリの時代よね」
                  「あぁ。ある時は繋がり、ある時は鎖ざす。そうやって大陸から多分に影響を受けつつ、島国としての独自性も構築した。それが現代日本さ」
                   桜子はうなずきつつ、志郎に問うた。
                  「ところで志郎兄は、開国派? 鎖国派?」
                  「もちろん前者さ。鎖ざした国に待つのは没落のみ。未来はないね。桜子は違うのか?」
                   問い返す志郎に桜子は、複雑な笑みを浮かべながら、輝きを増した歴史のクリスタルを眺め続けた。

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                • 一井 亮治
                  参加者

                     五話
                     
                    「へぇ。随分と輝かせたじゃないか」
                     歴史のクリスタルを手に微笑むのは、シュレだ。あれ以降、桜子と志郎は救国の糧を過去に求め、日本のルーツを様々な角度から研究することで理解を深め合っていた。
                     感心するシュレに、志郎が徐ろに切り出した。
                    「シュレ、実は行きたい時空があるんだ」
                    「どこだい?」
                    「15世紀のベニスだ」
                     これには、シュレも驚かざるを得ない。救国の時空探検を海外に求めてきたのだ。理由を問うシュレに志郎は、断言した。
                    「俺が税理士だからさ」
                     意を察しかねるシュレに志郎は、続けた。
                    「シュレ、今まで俺は国を変え未来を救うには、政治家か官僚になるしかないと思っていた。だが、今は違う。救国は税務の現場から起こしたい。その為にも税制の基礎を担う会計……つまり、複式簿記のルーツと日本への伝来をこの目で確かめたいんだ」
                    「私も日本を内側からだけでなく、外からも眺めてみたいわ」
                     志郎の熱弁に桜子も続く。そんな二人にシュレは腕を組み考慮の後、うなずいた。
                    「オーケー、イタリア語は喋れるかい?」
                    「簡単な会話ならな」
                    「いいだろう。ただ海外の時空は僕の念力にも限界がある。リスクは伴うよ」
                    「あぁ構わん」「承知の上よ」
                     声を揃えて同意する二人に頼もしさを覚えつつ、シュレは言った。
                    「オーケー。じゃぁ一つ、頼まれてもらおうか。前にも言った通り、クリスタルは、歴史を揺るがすものに大きな反応を受ける。そのキーアイテムを入手するんだ」
                    「『スンマ』だな?」
                     返答する志郎にシュレがうなずく。一方の桜子はその正体が分からない。
                    「スンマ?」
                     首を傾げるものの、シュレは構わず指を鳴らした。たちまち二人の体が光に包まれ、現代から姿を消した。
                     時空を駆け光の空間を抜けた二人は、例の如く上下逆さまになって乱暴に放り出された。
                    「痛っ……」「どうでもいいがこの着地、なんとかならないのか」
                     二人は憤りを覚えつつ上体を起こすと、そこにはいかにも中世ヨーロッパといった風景が広がっている。どうやら港町の様だ。
                     風に帆を膨らませた船が、海上を力強く行き交う中、志郎は桜子を手招きした。
                    「桜子、行こう」
                    「いいけど、どこへ?」
                    「市場さ。認識・測定・記録・伝達……まさに会計の現場を見に行くんだ。会いたい人もいるしね」
                     桜子は期待に胸を膨らませる志郎に連れられ、港町近辺の賑やかな街中へと向かった。二人の場違いな格好に皆が不審な目を向ける中、桜子の心は色鮮やかな品々や、行き交う人の活気に、高揚している。
                    「ここがベニス、かぁ……」
                     一方の志郎は通行人や店主に話しかけ、聞き取り調査を始めた。どうやら意中の人物の住処が分かった様である。
                    「桜子、こっちだ」
                     志郎の手招きに応じ、桜子が向かった先は酒場だった。そこに五十前後と思しき二人の男性が熱心に話し合っている。
                     そこに志郎がやや強引に割って入ったのだが、会話のツボがハマったらしく、すっかり意気投合し、互いの意見をぶつけ合い始めた。
                     言葉の分からない桜子は、取り残された感でいっぱいだ。
                    「志郎兄、どういうことよ?」
                     改めて問う桜子に志郎は、笑みを浮かべながら二人を紹介した。
                    「桜子、この方はルカ・パチョーリ。数学者で『スンマ(算術、幾何、比及び比例全書)』を著し、初めて複式簿記を学術的に説明された簿記会計の父だよ。そして、この方がルカさんの生徒であるレオナルド・ダ・ヴィンチさんだ」
                    「え、あのモナリザの?」
                    「そう。今はルカさんから数学と会計学を学んでおられる。要するに天才のお二人さ」
                     やがて、志郎は二人の天才に別れを告げると、桜子を伴って周囲を一望できる高台へと移った。その手には、ルカから譲り受けた著書『スンマ』が握られている。
                    「この本が複式簿記の始まりなのね」
                     感慨深げに問う桜子に志郎がうなずく。
                    「これから世界は、大航海時代へと突入する。冒険商人が王族に出資を仰ぎ、インドから香辛料を持ち帰り莫大な利益を上げていく。その取引を克明な記録として残す仕組みとして簿記が開発され、このベニスで大いに発展するんだ。このスンマは、そこに一石を投じたキーアイテムって訳さ」
                    「へぇ、会計学の誕生ね」
                    「もっともこの時点で重視されたのは、BS中心の静態論だけどね」
                    「BS? 衛星放送のこと?」
                     素っ頓狂な桜子の問いに、志郎は呆れつつ説明を続けた。
                    「バランスシート……貸借対照表の事だよ。清算前提で継続企業の概念がないんだ。これを東インド会社が変えていく。航海毎に清算しない仕組みを維持する組織を持った事で、会計帳簿も途中経過を報告する適正な期間計算という概念が生まれた。PL中心の動態論の始まりさ」
                    「あぁ、PL。高校野球の強かったとこね?」
                    「……損益計算書のことだよ」
                     志郎は頭を抱えつつ、根気よく説く。
                    「PLを中心に大きく発展した現代会計学だが、さらに時代が進むと、今度は収益費用アプローチから資産負債アプローチへと変貌し、再びBSが重視される時代となっていく」
                    「何よそれ。行ったり来たり」
                    「フフッ。まぁ、日頃から何気なく接している会計も、その背景には悠久の歴史が横たわっているってことさ。俺もその流れに一石投じたいと思ってる。桜子、一緒にやろう」
                     思わぬ勧誘を受け桜子は、声を上げた。
                    「はぁ!? ちょっと待ってよ志郎兄。大体、私みたいなテストの偏差値もろくに……」
                    「そう! その偏差値もそうさ。昔はなかった。だが、新たな概念が受験の形を大いに変えた」
                    「あぁ……得点と平均点が全く同じでも、偏差値が異なってくるってやつね」
                     桜子はゲンナリとうなずく。つまり、仮に平均点が60点で最高得点が70点だとして、それが1人しかいなかった場合、平均点付近に得点が集中し、70点の人は「とても優秀」となるが、点数がバラつき70点以上を取った人がたくさんいれば、その70点は「まあまあ優秀」という程度に落ちる。
                     点数のバラツキ(標準偏差)を加味した上で、全体の中でその人がどのくらいに位置するかを偏差値が数学的に示し、受験制度に定着した。
                     これと同様に税務の現場で新たな概念を生み出し、救国に尽くそうというのが志郎の言い分だった。
                     ――やっぱり志郎兄は、違うわ。
                     桜子は改めて実感している。志の高さゆえに着眼点が異なっており、それが積もり積もって今の自分との差を生んでいるように思われた。
                     ――救国は、志郎兄に任せよう。私如きが関われる世界じゃない。
                     脱帽感でいっぱいの桜子だが、ここで志郎が小声でつぶやく。
                    「ところで桜子、あのシュレだがな。お前はどう思う?」
                     首を傾げる桜子に志郎は続けた。
                    「奴の正体の話だ。お前の説明によれば、シュレは死神で閻魔から特別に命を救われたって話だが、俺は違うと思う。おそらく奴の正体は〈シュレディンガーの猫〉だ」
                     ――何? 今度は猫の話?
                     困惑する桜子に志郎は、自説を説いた。はじめは眉唾モノで聞いていた桜子だが、その結論を聞いて考えを改めた。
                    「確かにその可能性はあるかもしれない」
                     納得する桜子だが、その背後から突如、女性の声が響いた。
                    「あら、よく分かったわね。お二人さん」
                     驚いた桜子と志郎が振り返ると、背後に二十代半ばと思われる奇抜な髪色の女性が立っている。さらにその背後には、屈強な男達が二人を包囲せんと機をうかがっていた。
                    「何者だ!」
                     声を上げる志郎に、その女性は丁寧にお辞儀しつつ名乗った。
                    「はじめまして、セツナと申します。以後、お見知り置きを」
                    「一体、私達に何の用よ?」
                     桜子も負けじと吠えるものの、セツナは構わず言った。
                    「決まっているでしょう。あなたが持っている歴史のクリスタル、それをこっちに渡してもらえるかしら」
                    「お断りだ!」
                    「じゃぁ、仕方がないわね」
                     吠える志郎にセツナは、目を細めつつ命じた。
                    「二人を捕らえてしまいなさい!」
                     襲いかかる男達に、二人は果敢に立ち向かうものの多勢に無勢は免れない。逃げようにも周囲は塞がれている。たちまちその身柄を押さえられしまった。
                     ――何なのよ。コイツらは!?
                     憤る桜子だが、その上体を地面に抑え込まれた、歴史のクリスタルを奪われてしまった。
                    「おーほっほっ……これで未来は、私達のもの」
                     高笑いを浮かべるセツナだが、突如、歴史のクリスタルが強烈なエネルギーを放ちはじめた。
                    「熱っ……」
                     セツナが歴史のクリスタルを掌から落とす中、光は桜子を包み込み、たちまち異なる時空へと吸い込んでいった。

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                  • 一井 亮治
                    参加者

                       六話
                       
                       桜子が新たに放り込まれた場所――それは、寺小屋らしき古風な部屋である。突如として現れた妙ななりの桜子に周囲の塾生は「お前は何者だ!?」と、驚き慄いている。
                       幸い言葉が通じることから、場所が日本であることは確認できた。皆が目を丸くする中、塾の講師と思しき初老の男が前へ出た。問題はその顔である。日頃から使い崇めている紙幣との切っても切れないその人相に桜子は思わず声を上げた。
                      「あなたは、福沢諭吉っ!」
                      「先生を呼び捨てにするとは、まかりならん!」「そうだ。曲者め!」
                       周囲が非難轟々となる中、福沢諭吉は桜子が持つ一冊の本に目をつけ、小さく笑いながら言った。
                      「その本、『スンマ』ですな?」
                      「え……あ、はい。何でも複式簿記の記述があるらしくて」
                      「うむ。なるほど。どうやら訳ありの様だ。いいでしょう。皆、しばし自習しておいてくれ」
                       福沢諭吉は食い下がる塾生を手で制し、桜子を自身の書斎へと促した。そこで事情を話す桜子に福沢諭吉は、驚きつつも興味深げな顔で聞き役に徹している。
                      「そうですか、未来から歴史のクリスタルの導きを経てこちらに……」
                       うなずく福沢諭吉に桜子は、ふと山積みされた書籍を見て言った。
                      「諭吉さんは、本当に勉強家なんですね」
                      「ふっ、大半は無駄な努力ですよ。黒船が来てこれからは外国だ、と漢語ではなく蘭語をすすめられたが、世界の主流は英語だった。努力も方向を間違えば、とんだ徒労に終わるってことです」
                      「でも、確か『学問のすすめ』だっけ? 勉学を奨励されておられる」
                      「えぇ、ただ学問の捉え方が違います。以前は、難しき字を知り、解し難き古文を読むことが正しいとされていた。だが、これからは違う。金儲けの功利主義・通俗主義的道具と非難されていた実学こそ、合理的な教養となるべきだ。あなたが持つスンマの様にね」
                       福沢諭吉は目尻を下げつつ、一冊の書籍を取り出し、桜子に手渡した。
                      「『帳合之法』ですか?」
                      「えぇ、複式簿記を中心とした会計にまつわる私の翻訳著書です。学者に学問の実用性を、商人に勘と経験から脱却した会計による商いを求め、欧米に負けない国を目指したい。おそらくこの本が桜子さんの持つ歴史のクリスタルのキーアイテムとなるのではないですか?」
                       福沢諭吉から諭された桜子は、試しに帳合之法にクリスタルをかざすと、内部から眩い光を放ち始めた。
                      「諭吉さん。どうやら私のいた時空に帰れそうです」
                       頭を下げる桜子に福沢諭吉は、目尻を下げつつ言った。
                      「いいですか桜子さん。あなたの一家が専門とする税金。これは、国と国民との約束なんです。どうかそれを忘れずに」
                      「はい。諭吉さんもお元気で」
                       桜子はペコリと頭を下げ、歴史のクリスタルに導かれるまま、元いた時空に戻っていった。

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                    • 一井 亮治
                      参加者

                         七話
                         
                        「桜子じゃないか!?」
                         声を上げるのは、現代で待機していたシュレである。連絡が途切れ困っていたらしい。
                        「シュレ、私は大丈夫よ。それより志郎兄は?」
                        「いない。セツナに拉致されてしまったらしい」
                         頭を抱えるシュレに桜子は、しばし考慮の後、ズバリと切り込んだ。
                        「ねぇシュレ。あなたは以前、閻魔の計らいで、私に命と引き換えに救国活動の従事を求めたわよね」
                        「あぁ、僕はその死神さ」
                        「ウソね」
                         桜子は、鋭い視線で志郎が述べていた仮説をぶつけた。
                        「シュレ、あなたは死神なんかじゃない。未来のテクノロジーで、巧みにそう見せかけ私を蘇生させたエージェントってところよ。そして、あのセツナって女は、あなたの近親者なのでしょう」
                        「へぇ……よく分かったね」
                        「茶化さないで! 私は本当のことを知りたい。あなた達は一体、何者? 本当の目的は何?」
                         問い詰める桜子にシュレは観念したように肩をすくめ、掌に身分証明書らしきものを映し出した。
                        「時空課税局査察部、エレキナノマシン・エージェント?」
                         桜子が首を傾げる中、シュレが説明した。
                        「通称ENMA(エンマ)、当局で内密に設計された情報生命体……つまり、ゴーストさ。セツナはそのプロトタイプモデルに当たる。時空の異なる、ね」
                        「どう言うことよ?」
                         怪訝な表情を浮かべる桜子にシュレは、説明した。
                        「桜子、あらゆる物質は細かく分割する原子、さらに電子等の素粒子に行き着く。そこは、確率としてあちこちに分身する非日常的な世界なんだ。僕らはシュレディンガーの猫理論に基づき、量子論的に不確定な……まぁ、煎じ詰めて言えば科学的に構成された幽霊(ゴースト)ってところさ」
                        「……よく分からないけど、要するに私達を騙してたってことね?」
                        「そうでもないさ。十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない。どうせ事実を説明しても意味が分からないだろうし、ゴーストなんて君達から見たら死神みたいなもんだろう?」
                         全く悪びれることなく開き直るシュレに桜子は半ば呆れつつ、さらに問いを重ねた。
                        「じゃぁ、セツナは一体、何が目的で歴史のクリスタルを?」
                        「決まってるさ。脱税だ」
                         キョトンとする桜子に、シュレが鼻で笑いながら打ち明けた。
                        「桜子。僕らの世界では、タイムリープの際に時空税が課されるんだ」
                        「え、時空移動に税金がかかるの!?」
                        「当然さ。取りやすいところから取る、それが税金だからね。時空計算上、移動する期間の長さに応じ高税率を課す超過累進がとられている。だが歴史のクリスタルは、その負担を合法的に回避出来るんだ」
                        「つまり、タックスヘイブンみたいな?」
                        「そう。プロトタイプのセツナには、致命的な欠陥があった。バクに侵され課税当局から逃れて闇の勢力と繋がってしまった。もし歴史のクリスタルがセツナの手に渡れば、膨大なアングラーマネーが反社会的勢力の手によってマネーロンダリングされてしまう。それを防ぐのが僕の役目だ」
                         自慢げに説くシュレに桜子は、困惑しつつ根本的な疑問を投げかけた。
                        「じゃぁ、未来を救国するっていうのは……」
                        「それは事実さ。なぜなら歴史のクリスタルがそれを求めているからね。セツナに拉致された君のお兄さんの行方も、このクリスタルが知っているはずだよ」
                        「え……クリスタルが?!」
                         驚く桜子にシュレはうなずき、歴史のクリスタルを額にかざすよう促した。言われるがままに従うと、クリスタルは強烈な光を放ち、桜子を次なる時空へと連れ去っていった。

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                      • 一井 亮治
                        参加者

                           八話

                           例の如く、歴史のクリスタルによって乱暴に放り出された時空――それは一面が稲で覆われた一帯である。
                          「ここは?」
                           地面から起き上がった桜子が辺りを見渡していると、戸惑う男達の声が上がった。
                          「何だ何だ?」「お前は何者だ!?」
                           突然、宙が光り見たこともない身なりの女性が現れたのである。驚くのも無理もないのだが、一人の男が何やら思い当たる節があったらしく、周囲に指示を下した。
                          「皆、控えろ!」
                           たちまち男達は桜子の前に平伏した。
                          「え、何?!」
                           困惑する桜子に一人の男が切り出した。
                          「貴女様のことは姫様より伺っております。是非、直々にお会いになりたいと」
                          「姫様? 誰よそれ?」
                          「いやいや。お名前を口にするのも恐れ多い方にございます」
                           それを聞いた桜子は、思わず唸った。どうやら今度は、日本の歴史でもかなりの最古の時代に来てしまったらしい。
                           その後、桜子は男達に連れられ姫と奉られる女王の神殿へと案内された。恐る恐る中へと足を踏み入れた桜子は、そこに見知った人影を発見し、声を上げた。
                          「志郎兄!」
                          「おぉ、桜子じゃないか!」
                           二人は駆け寄り、再会を喜び合った。
                          「志郎兄、なぜこの時空に? セツナに捕えられてたんじゃ……」
                          「上手く隙をついて逃げ出したんだ。そこで追手から逃げてたら導きの声があって、この時空に放り込まれたって訳さ。全てはこの方のおかげだよ」
                           そう手を差し出して案内するのは、祭壇に佇む一人の女性である。いかにも昔の巫女といったその人相風体に、桜子は声を上げた。
                          「え、もしかして卑弥呼!?」
                          「桜子、ちゃんと〈様〉をお付けしろ」
                           志郎の注意に卑弥呼は「構いませんよ」と微笑んで見せている。
                          「でも志郎兄、なぜクリスタルは弥生時代を?」
                          「多分、日本において租税にまつわる最古の記録が残された時代だからだろう。『魏志倭人伝』に〈租賦を収む。邸閣あり〉と記述がある」
                          「へぇ、そうなんだ」
                           納得する桜子に志郎は改めてうなずき、卑弥呼に頭を下げた。
                          「卑弥呼様。ありがとうございます。おかげで俺達兄妹は再会できました」
                          「構いませんよ。私は生まれつき特異体質でね。そう言ったことが出来るんです。それにお二人を助けたのには、理由がありましてね」
                          「え、それはなんですか?」
                           桜子が志郎とともに聞き耳を立てていると、卑弥呼は苦悩の表情で一本の稲穂を手に切り出した。
                          「全ては、このコメが始まりなの」
                          「コメ? 稲作のこと?」
                           キョトンとする桜子に志郎が補足した。
                          「稲作って、この時代の一大革命だったんだ。狩猟採集から人類を解放した訳だからな」
                          「えぇ、志郎さんの言う通り、コメは人を幸せにするはずだった。これまででは出来なかった貯えができた訳ですから。ただ、この貯えは同時に貧富の差も生んだ。土地や水をめぐる争いの種ともなってしまったの」
                           卑弥呼は、一息つくや二人に訴えた。
                          「私はコメがもたらした負の側面をなくしたいの。どうすればいいと思う?」
                          「俺は放っておくべきだと思います」
                           そう主張するのは、志郎だ。曰く、富める者がより豊かになれば、貧しいものにもその恩恵が滴り落ちる、と。いわゆるトリクルダウン理論である。
                           だが、桜子はこれを否定した。
                          「私は、ある程度の公権力が必要だと思う」
                           このいわゆる小さな政府と大きな政府の是非は、現代社会においても一つの争点となり続けている。
                           延々と論争を広げる二人だが、おぼろげながらも答えは出ていた。格差の是正は税金が一つの解となり得る、と言う点だ。
                          「公平な租税で格差を是正する、と言う訳ですね。お二人の話はわかりますが、何を持って公平とすべきなのか……」
                          「えぇ、全員に一律の税を課す水平的公平と、高い担税力を持つ者により重い負担を課す垂直的公平に分かれます。俺達の時空では、そのバランスが鍵なんですが、まだこの国はその時期にない」
                           志郎は一息つくや考慮の後、卑弥呼に進言した。
                          「卑弥呼様、どうでしょう。ここは一つ、進んだ国に学ぶと言うのは?」
                          「進んだ国……つまり、魏に学べ、と?」
                           卑弥呼の問いに志郎は、うなずく。
                          「租税は歴史の中で、そのカタチを何度も変えてきました。社会の変化によって、求められるあり方も変わるからです。この国は、いい意味でも悪い意味でも島国だ。今は大陸に使者を派遣し、教えを乞うべきときかと」
                          「しかし、我が国は小さい。果たして魏が応じてくれるかどうか」
                          「小さいからこそ、です。胸襟を開き多くの知恵や進んだ考えを取り入れ、この国なりの形にアレンジする。そうすれば、おのずと答えが見つかりましょう」
                           志郎の説得に卑弥呼は、大いにうなずいている。その表情は実に晴れやかだ。
                           そこで桜子が持つ歴史のクリスタルが光を放ち始めた。
                          「どうやらお別れのようですね」
                           名残惜しそうな卑弥呼に、桜子が歩み寄りその手を取り合った。
                          「卑弥呼様、頑張ってください」
                          「えぇ、あなた達もね。応援しているわ」
                           卑弥呼と互いの健闘を誓い合った桜子・志郎は、クリスタルに導かれるが如く光に飲まれ、この時空から姿を消した。

                          「結局、卑弥呼様って何者だったのかな」
                           現代に戻った桜子の疑問にシュレが応じた。
                          「時代に対する共感能力が強かったんだろう。時空理論上、ごく稀にそういった力が宿ることがある」
                          「シュレ、俺も聞きたいことがある」
                          「なんだい?」
                           聞き耳立てるシュレに志郎が、言った。
                          「あのセツナだが、妙にこの現代に感度がいい、というか独特のこだわりを感じるんだ。奴の狙いは、歴史のクリスタルによる時空を超えた巨額脱税だろう。その背後に、この時代の税理士が絡んでいるって線はないか?」
                          「ふっ、相変わらず志郎は勘がいいね。丁度、同じことを考えていたところさ。十分にありえる話だ。もしそうなら……」
                          「いずれこの時空で対決するときが来る、だな?」
                           念を押す志郎にシュレは、黙ったまま静かにうなずいて見せた。

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                        • 一井 亮治
                          参加者

                             九話

                             長かった梅雨が明け、初夏を迎えた頃、桜子にちょっとした事件があった。なんと告白を受けたのだ。
                            「え、私を?!」
                             驚く桜子に頭を下げるのは、一学年下の〈平林翔〉というひょうきんな性格で同性に人気のある後輩だ。
                            「センパイの事が好きなんです!」
                             体育館の裏に呼ばれ、そう告白された桜子は、戸惑いを隠せない。劣等生の問題児で何ら誇れるものがない桜子なだけに、面食らっている。
                            「あの……こんな私のどこがいいの?」
                             思わず問いかける桜子に翔は、何ら恥じる事なく断言した。
                            「全てです。実に愛しております」
                             あまりのストレートさに気恥ずかしさで真っ赤になった桜子だが、翔の目は真剣そのものだ。むしろこんな自分を受け入れてくれた事に嬉しさすら覚えた。
                             やがて、翔は思いの丈を延々と桜子にぶつけた挙句、遊園地のチケット差し出した。言わずもがな、デートの誘いである。
                            「お願いしますっ!」
                             オーバーなくらいの平身低頭さを見せる翔に桜子の心は大いに揺らいでいる。やがて「ありがとう」と二つ返事でデートの誘いを受けた。
                             こんな私にも彼氏が出来た――喜びいさむ桜子は早速、志郎にメールを送った。七月十日と期限の迫る源泉の納特に追われ忙しいことは承知していたが、それでも自慢せずにはいられなかったのだ。
                             だが、志郎の返答は実に桜子の意に反するものである。
                             〈お前に告白!? それは絶対に怪しい。セツナの一派が仕掛けた罠って線はないか?〉
                             これには、桜子もカチンとした。確かに疑いはしたものの、桜子から見て翔は純粋さに溢れており、決して騙そうとするものには思えない。
                             〈それはない。私にだってそのくらいは分かる〉
                             憤慨気味に返信し、やり取りを重ねたものの意思疎通は図れず、桜子は「もういいっ!」と一方的にやり取りを切り上げた。
                             
                             
                             
                             その週末、十分にめかし込んだ桜子は、志郎に内緒で翔が待つ遊園地へと繰り出した。ゆうに三十分程、前もって集合場所に着いた桜子を翔は笑って受け入れ、ともに遊園地へ入った。
                            「翔君。私、あれに乗りたい!」
                            「はっはっはっ……僕もです。気が合いますね。行きましょう!」
                             絶叫系を攻める桜子に翔は、喜んで付き合った。
                             ――こんなに楽しいの……何年ぶりだろう。
                             桜子は改めて考えた。国際税務ライターの母・ソフィアは海外取材に忙しく、また善次郎・善次郎や在学中の兄・志郎も税理士業務の追われ、家庭を振り返る余裕がない。
                             それだけに才能が欠落し落ちこぼれの桜子の心は、ずっと満たされずにきた。
                            「うちもそうです。家族は皆、多忙で。センパイの気持ち、凄く分かりますよ」
                             笑って理解を示す翔に共感を覚えた桜子の気分は、大いに高揚している。
                             楽しい時間はあっという間に過ぎ、二人は最後の乗り物として観覧車に乗った。二人きりの空間で桜子は満面の笑顔で、幸せそうに言った。
                            「今日は、本当に楽しかった!」
                            「僕もです」
                             翔も笑ってうなずく。強い夕日に眼下の景色がくっきりとしたコントラストを見せる中、桜子は熱に浮かされたように翔と甘いひとときをともにしている。
                             さらに翔の気を引こうと、桜子はポーチからもっとも大切なものを取り出した。
                            「ねぇ翔君。これ、何か分かる」
                             自慢げに桜子が見せたのは、歴史のクリスタルである。
                            「綺麗でしょ。でもこれ、ただの宝石じゃないのよ。実はね……」
                            「歴史のクリスタル、でしょ」
                             ニヤリとほくそ笑む翔に桜子は、はっと息を飲む。そこには、今まで見せなかった翔の本性が露わになっていた。
                            「ちょ、ちょっと翔君!?」
                             戸惑う桜子を翔は、力任せに押し倒すや、その手からクリスタルを奪い取った。
                            「奪ったぞ!」
                             吠える翔に、桜子は理解が追いつかない。
                            「翔君、どういうこと?!」
                            「どうもこうも、そういう事ですよ。センパイって本当に頭が悪いですね」
                             立ち上がった翔は、床に倒れ込む桜子をバカにしながら、用済みとばかりに一周した観覧車から出て行った。
                            「ちょっ……待って!」
                             慌てて翔の背中を追う桜子だが、そこに見知った顔ぶれを見て愕然と声を上げた。
                            「セツナっ!?」
                             驚く桜子にセツナは、配下の男達とともに高笑いを浮かべている。
                            「ほっほっほっ……アンタみたいなおバカさん、騙すのは簡単よ。それとも何? 本当にアンタみたいな落ちこぼれに惚れる男がいたとでも思ったのかしら?」
                            「卑怯者っ!」
                             叫びながら飛びかかる桜子だが、周りの屈強な男達に止められ、地面にねじ伏せられた。桜子は満足げに去っていくセツナや翔達を、ただ呆然と黙って見送るしかなかった。
                             ――私、何て事を……。
                             桜子は己がおかしたことへの懺悔と、まんまと騙された情けなさに立ち上がることすら出来ない。完膚なきまでに打ちのめされた桜子だが、不意にその背後から声が響いた。
                            「大丈夫だよ、桜子」
                             振り返った先にいたのは、志郎である。その手には、奪われたはずの歴史のクリスタルが握られている。驚く桜子に志郎が笑って言った。
                            「こっちが本物、アイツらが持って行ったのはクリスタルに似せた偽物だ」
                            「え……じゃぁ、志郎兄は、アイツらが騙しにきたって分かってて……」
                            「あぁ、どうせ何を言ってもお前は聞かないだろう。だからシュレと相談して、すり替えたんだ。もう安心していい」
                             そう聞かされた桜子は、がくりと肩を落とした。安堵を覚える以上に凄まじい自己嫌悪にかられたのだ。
                             その後、ベンチで志郎と肩を並べた桜子は、スカートを握り締め思いの丈を吐いた。
                            「志郎兄。私、こんな惨めな自分が嫌っ! どうしたらいいのか、分からない……」
                            「そこまで自分を責めなくてもいい。ただ、軽率さを気をつければいいだけだよ」
                            「それは、志郎兄だから言えるのよっ!」
                             桜子は思わず声を荒げ、涙を拭いながら訴えた。 
                            「そりゃ志郎兄は、何をやってもそつなくこなすし頭もいい。スポーツも万能で……けど、私は逆。私みたいな劣等生の気持ち、分かんないわよ」 
                             肩を震わせ嘆く桜子を志郎はじっと眺めていたが、しばし考慮の後、思わぬ話を切り出した。それは、全てを変える魔法の一言である。
                            「桜子。お前、税理士を目指してみないか?」
                             桜子は、思わず言葉を失った。自分の能力からあまりにもかけ離れた提案に、怒りを超え呆れすら覚えている。
                            「志郎兄、何言ってるのよ。そんなのムリに決まってるじゃない! ろくに勉強も出来ない一家のお荷物の私なんかに……」
                            「いや、これはずっと思っていたことなんだ。桜子、お前は税理士に向いているよ」
                             ――自分が税理士に向いている!?
                             桜子は自問したものの、とてもその言葉を受け止める要素が見当たらない。かぶりを振る桜子に志郎はさらに続ける。
                            「桜子、税金の本質ってなんだと思う?」
                            「そんなの取る側と取られる側の騙し合いよ」
                            「お前がそう思うならそれでいい。代表なくして課税なし。政府と人民の約束なり。皆、色々言うけど、それぞれに各々の事情があるからな。ただ仮にこれを騙し合いとするなら、賢く振る舞った側の勝ちだ」
                             じっと聞き役に徹する桜子に志郎は、畳み掛けた。
                            「税理士試験もそうさ。出題者との騙し合い。なら勝たないと。幸いうちの事務所は基盤も安定している。皆でサポートするよ。歴史のクリスタルも含めてな」
                             こんこんと説く志郎だが、桜子は全く自信が持てない。確かに税理士一家に生まれた以上、憧れはしたが、その難度ゆえに端から諦めていた。それだけに今、改めて己に問うている。
                             ――このまま人生の敗者を続けたくない。こんな自分を変えたい。けど……。
                            「志郎兄。私、数字に弱いよ」
                             不安を晒す桜子に志郎は、笑って言った。
                            「大丈夫。秘策があるんだ。桜子、お前は数字をどう読んでる?」
                            「そりゃぁ〈イチ・ニイ・サン〉よ」
                            「短縮するんだ。〈イチ・ニイ・サン〉を〈イ・ニ・サ〉と通常の読みの半分にすれば、負担が半減し計算力が倍になるだろう」
                            「確かに……」
                             思わず唸る桜子に、志郎は「他にも方法は、色々あるんだ」と前置きし、桜子の肩をポンっと叩いた。
                            「桜子、一人で悩まなくてもいい。皆が応援するから。だって家族だろう。お前には、そこに甘える資格がある」
                             志郎の断言に桜子は、涙が止まらない。悩みを一緒に背負ってくれる家族がいる――その事実がたまらなく嬉しかった。
                             同時にその心は、新たな決意に固まっている。
                             ――どこまで出来るか分からない。けど、私も目指してみよう。税理士を……。
                             閉園の音楽が流れる中、桜子は大きな一歩を踏み出した。

                             ※第一部 完(第二部は月曜日の週刊で連載予定です)

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                               十話

                               税理士への決意から数日後、桜子は志郎やシュレと敵対勢力のセツナを調べている。丁度、両親が海外に出払っていたこともあり、税理士事務所を陣取り情報収集に励んだ。
                               鍵は翔だ。先日のデートで桜子を嵌めた後、忽然と姿を消したのだが、その痕跡からセツナらに絡む巨額脱税の全容が明らかになり始めたのだ。
                              「どうやら、かなり凄腕の税理士が絡んでいるみたいぜ」
                               入手した資料から憶測を述べるのは、志郎だ。曰く、至るところで現代会計と税法を駆使し、時空課税をもみ消す操作がなされているという。
                              「こんなスキーム、普通の税理士では思いつかない。相当なやり手だ」
                               志郎の意見にシュレも同意し、感想を述べた。
                              「かなり大掛かりなヤマになるね。時空を超えて政・官・財に根を張る巨大シンジケートだ。武器密売に違法カジノ、巨額脱税、まさにアングラーマネーのオンパレードさ」
                              「シュレ、お前の力で何とかならないのか?」
                              「難しいね。僕らは所詮、量産型ゴーストに過ぎない」
                              「つまり、プロトタイプに劣るってこと?」
                               口を挟む桜子にシュレが苦々しくうなずく。それを見た志郎は、首を傾げながら尋ねた。
                              「シュレ、普通は試作機の方が後継機種に劣るはずだ。OSが違うのか?」
                              「組み込まれたAIが違うんだ。未知のテクノロジーが使用されていたらしい。それが外部からのハッキングにより暴走し、逃亡を許してしまった」
                              「そのうえクリスタルまで奪われれば、セツナは地下経済を牛じる女王になってしまう訳か」
                               腕を組み唸る志郎にシュレも同意している。だが、桜子は今一つ納得がいかない。試しに聞いてみた。 
                              「ねぇシュレ。セツナにそこまでの力があるなら、もっと強引に奪いに来てもよさそうじゃない? わざわざ翔を使って回りくどいよ」
                              「ふっ、そこが歴史のクリスタルの難しいところさ。コイツはね。一定の条件下でしか譲渡できないんだ。先日は意図的にその状況を作って翔を誘い出した。だが、今度はそうはいかないだろう」
                              「オーケー。まずは、この現代でセツナの協力者を探ろう」
                               志郎はノート端末を開くや、独自に組んだサーチエンジンで検索プログラムを走らせてみた。そこでヒットした項目をリストアップしたのだが、奇妙な共通点が見て取れた。
                              「志郎兄、この〈ハル税理士法人〉って……」
                               画面を指差す桜子に志郎がうなずく。
                              「昨年、閉鎖した税理士法人だ。おそらくダミーだろう。時空工学上のトンネル会社に悪用していた可能性がある。シュレ、何か手掛かりはないか?」
                              「ノーコメント」
                               シュレは肩をすくめ、お手上げの仕草で言った。
                              「悪いけど、ここは僕らにとってアンタッチャブルな領域なんだ。イエスともノーとも言えないね」
                              「何よそれ!」
                               声を上げる桜子を志郎がなだめながら言った。
                              「俺が行こう。虎穴に入らずんば虎子を得ず、だ」
                              「だったら私も行く!」
                               立ち上がる桜子を志郎は、手で制す。
                              「桜子、お前まで危険に晒せないよ」
                              「気にしないで。これは私が持ち込んだ案件よ。人任せになんか出来ない」
                               頑なに首を振る桜子に志郎は仕方なくうなずき、ともに家を出た。
                               約半時間ほど電車に揺られた二人は、駅を降りハル税理士法人が入っていた雑居ビルへと入った。
                               目的の階でエレベーターを降り、部屋の前へとたどり着いた志郎は、桜子を下がらせ慎重にノブを捻ると扉が自然と開いた。
                              「鍵が空いたままだ……」
                               志郎はしばし躊躇した後、桜子とこっそり部屋へ忍び込んだ。中は実に閑散としており、税理士法人があった痕跡は残されていない。
                              「おかしい。確かにここがセツナが時空移動を行う拠点だったはずだ。一体、どうなっているんだ……」
                               桜子とともに首を傾げる志郎だが、その背後の扉が閉まり、図太い男の声が響いた。
                              「よく来たね。源志郎君、桜子君」
                               二人が驚いて振り返ると、そこには一人の成人男性が立っている。背広を羽織っている手前、ビジネスマンとも見て取れるが、その顔は二十歳半ばと若さに溢れている。
                               やがて男は、神経質そうにメガネを手で押さえるや、名刺を取り出し志郎の足元に投げた。恐る恐るその名刺を拾った志郎は、そこに記された名を読み上げた。
                              「アラン・オニヅカ?!」
                              「え、それって確か不祥事を働いて税理士資格を剥奪されたってニュースが……」
                               記憶を辿る桜子にオニヅカがうなずく。
                              「その通りだ。君達なら必ずここへ来ると思っていたよ」
                              「セツナの一派か。悪いが歴史のクリスタルを渡すつもりはねぇよ」
                               吠える志郎にオニヅカは、笑ってかぶりを振る。
                              「ふっ、いつまで強がりを言っていられるかな。まぁ、本来は俺の出る幕じゃなかったんだがね。翔の奴がしくじったから、出ざるを得なくなった。困った話だ」
                               オニヅカは肩をすくめつつ、二人に言った。
                              「歴史のクリスタルで救国ごっことは実に嘆かわしい。そんなことをしても、この国はもう助からないさ。なら溺れる船でひと稼ぎと行こうじゃないか。どうだ。手を組むつもりはないか?」
                              「お断りだ!」「この売国奴!」
                               罵る志郎と桜子にオニヅカは、やれやれとため息混じりに手を振り、背を向ける。部屋を出ようとした手前で、意味深なセリフを吐いた。
                              「〈リクドウ・シックス〉。調べてみることだ。セツナにまつわる情報に行き着く」
                               志郎はキョトンとしつつ、オニヅカに問うた。
                              「なぜそんな情報を俺達にバラす?」
                              「ハンディだよ。せいぜい健闘したまえ」
                               オニヅカは不気味に笑いつつ、その場を去って行った。

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