【新企画】桜志会が大活躍する挿絵小説

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【新企画】桜志会が大活躍する挿絵小説

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    • 一井 亮治
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         桜志会が積み重ねてきた親睦と研鑽の伝統を、将来のビジョンや課題、ポテンシャルを交え挿絵小説に落とし込む試みです(取り敢えず週一連載で)。
         本企画を通じ、税理士ならではの魅力や憧れ、格好良さ、新たな未来像の再発見が出来れば。

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      • 一井 亮治
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           第一話

           桜志会――その組織との出会いは、突然だった。高校二年生にすぎない俺・五十嵐優斗に、あろうことか国家転覆の容疑がかけられたのだ。
          「物証は上がっている。どこのスパイだ?!」
           畳み掛ける捜査官に無罪を主張するものの、全く信じてもらえない。
           ま、多少の非はある。プログラミングにハマった俺は、すっかりオタクと化し、有名企業や官公庁にゲーム感覚でハッキングを仕掛けていたからな。
           だが、所詮はお遊び、ネット仲間に自慢し合う程度のものだ。国家転覆だのスパイだの、あまりに大それて考えたことすらない。
          「俺は嵌められたんです。大体、動機がないじゃないですか」
          「お前の口座に多額の金が振り込まれている。それも米ドルと人民元でな。スイス銀行にまで手を伸ばしたそうじゃないか!」
          「だからそれ、全部ガセです。罠です。俺を陥れる陰謀なんです!」
           必死に訴えるものの、あまりに揃い過ぎた証拠を前に信憑性の欠片すら感じてもらえない。
           裁判しても十中八九、負けるだろう――そう言われた俺の絶望たるや、並大抵のものではない。
          「終わったな。俺の人生」
           生まれて初めて悔し涙を流した。とにかく無念でやり切れなかった。
           そんなこんなですっかり留置所で落ち込んでいた俺なのだが、そこへ突如、救いの手が差し伸べられる。敏腕弁護士・権藤先生がついたのだ。
           なんでもその筋に強く、検察にも顔が効くとかでびっくりするくらい頼りになった。
          「優斗君、何とかなりそうだよ」
           そう言われたときの俺の感激は、とても言葉にあらわせるものではない。これ以上はない嬉しさを噛み締めつつ、俺は問うた。
          「でも、何で権藤先生みたいな偉い人が、俺なんかに?」
          「税理士である君のお父さんのツテだ」
          「え、親父の!?」
           俺の笑顔は急に曇る。と言うのも親父とは仲が悪く別居中なのだ。世間体ばかり気にする教育方針とやらが、とにかく肌に合わない。
           母親が出て行って以降、それはより顕著だ。そんな俺に権藤先生は、さらに続ける。
          「より正確に言えば、君のお父さんが所属する桜志会のだね」
          「桜志会?」
          「税理士二世で構成されるネットワークのプラットフォームだ。彼らに頼られれば、私とて断れない。君を助けるに至ったって訳さ」
           内情を晒す権藤先生に俺は、頭を捻る。
           ――桜志会……確か親父がそんな話をしていた記憶はあるが……。
           訝る俺は思わず詰った。
          「その桜志会って組織、チラッと聞いたことはありますけど所詮、見栄っ張りが意地張るためだけに作った馴れ合い集団でしょ」
           坊主憎けりゃ袈裟まで憎いではないが、険悪な親父との関係が俺の印象をすこぶる悪くした。国家資格か何だか知らないが、実態は人の金をネタにメシ食ってる卑しい連中だと嘲笑する俺に、権藤先生の表情が凍った。
           しばしの沈黙の後、権藤先生は見据えた目で重い口を開く。
          「優斗君、これだけは言っておこう。彼らは税に特化したお金のプロだ。中でもあの桜志会は一見、和気あいあいと見せてはいるが、恐ろしいほどのポテンシャルを秘めている」
          「でも、たかが任意団体ですよ」
          「たかが任意団体、されど任意団体。君はまだ社会の恐ろしさを知らないからな。強固な地盤、人脈、いざとなったときに見せる団結力……羨ましい限りだ」
           ――羨ましいだってぇ!?
           思わず吹き出す俺だが、権藤先生の表情は真顔だ。何より目が笑っていない。
          「これ、君のお父さんからの差し入れだ。留置所にいる間くらい、これで人生を考えてみろとのことだよ」
           権藤先生は一冊の本を差し出した。どうやら税理士という仕事の魅力と大変さについて書かれた本らしい。
           ――何が税理士だ。もうウンザリなんだよ。馬鹿らしい。
           権藤先生との接見を終えた俺は、留置所に戻るや、その本をポイっと放り投げた。
           しばらく目すら合わさない俺だったが、何ぶん留置所には娯楽がない。仕方なしにその本を拾い直すと時間潰しにパラパラとめくり始めた。
           やがて、会計の仕訳について書かれた箇所に目を走らせた俺は、思わず呟いた。
          「ん。これって要するにプログラミングじゃん」
           どうやら両者には共通点があるらしい。例えば、プログラミングにおいて、ウェブサイトはHTMLやCSSが支えている。情報技術における共通言語といっても過言ではない。
           他方、会計は簿記に従い、財務諸表を作成していくビジネスの共通言語だ。HTMLがここにある有価証券報告書なら、CSSはその説明資料と言えよう。
           これまで親父を毛嫌いし、税理士に見向きすらしなかった俺だが、いつしかその隠れた魅力に気付き始めていた。
           ――いけ好かない親父だが、案外、税理士も悪くないかもしれない。
           その上で今一度、桜志会という組織を考えてみた。今回、俺を貶めたのがどこの誰かは分からないが、見事に救うキッカケを作ってくれた。もし桜志会というネットワークがなければ、俺の人生は完全に詰んでいたのだ。
          「権藤先生をもってして、あそこまで言わしめるとは、なかなか頼もしいじゃないか」
           俺は格好良さを感じつつ、改めてその名を呟いた。
          「桜志会、か」
           

           
           その後、俺の嫌疑は晴れ無事釈放されるに至ったのだが、今回の事態は俺に様々な教訓をもたらしてくれた。
           ――この世は人の繋がりだ。社会を敵には回せない。なら特別なコネクションを押さえ、そこから広がりを狙っていく方が効果的なんじゃないか。
           これまでろくに将来設計を考えることのなかった俺だが、改めて人生について考えている。その橋頭堡と位置付けたのが、税制だ。日本国憲法第三十条は、国民に納税の義務を課している。国家の国家たる拠り所といっても過言ではない。
           ――その根幹に位置するのが、税理士と言う訳だ。
           さらに俺の思索は、俺を陥れようとした謎の存在にも及ぶ。浮かび上がったのが、〈国境なき税務団〉なる組織である。
           何でもタックスヘイブンやマネーロンダリングに長けた組織らしいのだが、その詳細は不明でなぜ俺が狙われたのかも分からない。どうやら闇が深そうである。
           その後、ネットを終え家を出かけた矢先、俺のスマホに一本の着信が入る。その相手に舌打ちしつ、通話を受けた。
          「親父? 朝っぱらから一体、何の用だよ」
           嫌々ながらも応対する俺に親父は、思わぬ話題を切り出した。何でも次の土曜日に厚生部の行事があるらしく、そこに参加しろとのことである。
           本来ならそんな七面倒くさいイベントなど見向きもしない俺だが、今回ばかりはそうもいかない。何を隠そう、俺を絶望の淵から救ったあの桜志会のイベントである。
          「分かったよ親父、行きゃいいんだろう」
           俺は苛立ち混じりに応答するや、用は済んだとばかりに着信を切る。あからさまに嫌々を装う俺だがその実、かなりの興味を覚えている。
           ――桜志会、か……一体、どんな連中がいる組織なんだ。
           その実態を想像するだけで、ゾクゾクと興奮する己を感じていた。

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        • 一井 亮治
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             第二話
             
             次の土曜日、集合場所のテーマパークへと向かった俺に声がかかる。
            「優斗」
             振り返った先にいたのは、親父の五十嵐賢治だ。案の定、いつものお説教タイムである。やれ一分三十七秒遅刻だなんだと、事細かに俺を問い詰めてくる。その神経質な性格に俺は、ゲンナリだ。
             はや不機嫌オーラ全開となった俺だが、それを一変させる出来事が起きた。
            「優斗。先日、お前に弁護士を紹介してくれた税理士の鈴木先生だ。しっかり礼を言え」
             親父に促され、俺はその鈴木先生に頭を下げる。やや中年太りのいかにも優しげな鈴木先生だが、驚くべきはその傍らに控える娘さんである。
             歳は俺と同じくらいか、やや色黒ながらも黒い装いに清楚な佇まいを見せるその容姿は、実に別嬪だ。いかにもお嬢様といった雰囲気を醸し出している。
             聞けば兄を税理士にもつ末っ子だという。
            「おほほ……ご機嫌よう。鈴木聖子と申します。よろしくお願いしますね。優斗君」
             丁寧に腰を折る鈴木聖子に俺も挨拶で応じる。実に大人しげな優等生といった感じだ。その後、しばし談笑の後、親父は鈴木先生を連れて、他の先生への挨拶に去っていく。
             その背中を見送った俺だが、ふと傍らの鈴木聖子を見て目が点になった。
            「えっ。や、ちょっ……鈴木さん……」
            「聖子でええよ。何?」
            「何って、タバコは……」
            「あぁコレ? アンタもやる?」
             一本差し出す聖子に俺は、慌てて手を振りその好意を拒む。聖子は、ふんっと鼻を鳴らすや、先程までとは打って変わって、いきなり毒気付き始めた。
            「なんでこんな土曜にうちが付き合わされなきゃならないんだか。けっ、バカらしい。かったるいわ。どうせアンタも同じクチでしょ。優斗?」
             スイッチが入ったのか、いきなり呼び捨てタメ口モードに豹変する聖子に、俺は開いた口が塞がらない。だが、聖子は構うことなく続けた。
            「優斗、色々聞いてるよ。ネットで下手打ってポリにパクられかけたんだって? しかも、相手はあの国境なき税務団らしいじゃん」
            「あ、あぁ……そうらしい」
            「そうらしいってアンタ、自分のことでしょ。なに人事みたいになってんのよ。まぁいいわ。で、これからどうすんの?」
            「どうするって?」
            「進路! 決まってんじゃん。税理士って結構、イバラの道よ。いずれ全部AIがやるようになる。私達はさながら絶滅危惧品種ってわけ」
             自嘲する聖子に俺は言葉が見つからない。それでも何とか話を繋ぐべく問うた。
            「その……聖子は国境なき税務団の事は、詳しいのか?」
            「まぁね。とにかく厄介な連中よ。目をつけられたアンタには、同情するわ」
             聖子は俺に微笑を浮かべつつ、スマホを取り出し、俺に顎をしゃくる。何事かと訝る俺に聖子が苛立ち混じりに言った。
            「アンタの連絡先よ! 国境なき税務団の動き、色々分かるからその都度、教えてあげるって言ってんの」
            「あ、そうか……助かる」
             俺はカクンと首を振るや、自身のスマホに聖子のアドレスを登録しつつ、素朴な疑問を投げかけた。
            「でも聖子。何で俺にそこまで?」
            「ふふっ、うちはな。強い奴が好きなんや。アンタ、随分とネットで腕が立つらしいね。なんかやって見せてよ」
             スマホを差し出す聖子に、俺は戸惑いつつも、とあるサイトに接続し簡単なプログラミングを施した。それは違法ではないものの、グレーゾーンのギリギリをついたテクニックだ。
            「聖子、これで国際電話をタダでかけられる」
            「え、何それ! マジ!?」
            「あぁ、ただ三日間だけどね」
            「へぇ……優斗、アンタって超便利ぃ」
             どうやら俺は聖子のお気に入りになったらしい。その後も盛んに話しかけてくるのだが、その内容が実にラジカルだ。何でもかなりの格闘技マニアらしく、自身も新たな流派を見つけては門を叩き、教えを乞うばかりか道場破りまでこなす強者だという。
             ーーこれは、とんでもない跳ねっ返り娘だ。
             俺は半ば呆れつつも、問うた。
            「じゃぁ聖子の進路は、プロの武道家なのか?」
            「またこれだ。男ってのは皆、発想が貧相。そんなケツの穴の小さい未来、誰も描いちゃいないわよ」
             聖子は人差し指をチッチッチッと振るや、自らのとんでもない構想をぶちまけ始めた。曰く、世界を舞台にサイバー空間で電脳格闘大会を開催したいと言う。
            「優斗、ハッカーオタクのアンタと格闘技マニアの私で組んでみない?」
            「ちょっと待ってくれ。大体、俺達まだ学生だぜ。どうやって資本を……」
            「クラファンよ。はじめは個人事業でいいじゃん。いずれ法人成りさせ上場を目指し、世界へ打って出る」
            「それが聖子の描く将来像なのか?」
            「違う。将来じゃなくたった今、始まったのよ。私、これまで何かが足りなかった。構想を練っても最後のワンピースが見つからなかったの。でも今、見つかったわ。優斗、アンタよ」
             どこまでも捲し立てる聖子に、俺はまるでついていけない。察した聖子が諭すように続けた。
            「あのね優斗、時代は変わったの。いい学校を出て有名企業に入り定年まで勤め上げる。社会が右肩上がりだった頃は、そのアナログな価値観がプラスに働いた」
            「今は違うのか?」
            「えぇ、国や会社におんぶに抱っこじゃ凌げない。日本は厳しい局面を迎えていくわ」
            「俺達の未来は真っ暗ってわけか」
            「それも違う」
             どう言う事なのか、意を察しかねる俺に聖子は、鼻息荒く続けた。
            「いい? たとえ社会が没落しても、個々として成功していくことは十分に可能なの。組織につかえる時代じゃない。逆にこちらから組織を利用し、個々の才能で未来を切り開く時代なのよ」
            「つまり、聖子にとって桜志会は……」
            「夢を叶えるためのツールよ。桜志会の兄を通じ、親睦と研鑽の先に皆で成功を掴む。父も言ってるよ。楽しくない桜志会なんて桜志会じゃない。ゾクゾクしてこその任意団体だって」
             聖子が示すビジョンに俺は、改めて感じ入っている。確かに内容は破天荒なのだが、不思議な説得力を伴っていた。
             
             
             
             その後、俺達は皆と一行になってテーマパークを回っていく。無論、その間も聖子の与太話は続いている。熱く夢を語り尽くすその様は、まさにゴーイングマイウェイだ。
             ――一体、どこまで続くんだ。
             途切れることのない談話に半ば呆れ気味の俺だが、なぜか飽きは来なかった。それどころか触発されたように沸き起こるフワフワとした高揚感を実感している。
             それは夢であったり希望であったり、いつしか現実の生活に埋没していったものだ。そんな楽しいひとときを過ごした俺の心は、気がつけば聖子一色に染まっていた。
            「じゃぁね。優斗」
             夜のイルミネーションが煌めく中、父や従兄らとともに去っていく聖子に俺の心は締め付けられるような苦しさを感じている。
             ――俺はどうしてしまったんだ。
             なぜか迸る感情を抑えることが出来ない。溢れる想いはいつしか切なさに変わっていく。俺は悟った。どうやら恋に落ちてしまったみたいだと。
             その後、父とも別れた俺は熱に浮かされたようにフワフワと帰路についていく。その心はもどかしいほどに痛かった。

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